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「渋沢くん!」 大きな声で名前を呼ぶと、彼は小走りで近寄ってきた。 「先輩。どうしたんですか?」 怪訝そうな顔をしてそう聞かれる。 それもそのはず、今日は中等部の始業式。この春から高校生になる私がいるのはおかしいのだ。 「ごめんごめん。これ、引き継ぎ資料渡すの忘れてて。」 「わざわざありがとうございます。」 「ううん。忘れてた私が悪いんだし。」 今年度サッカー部キャプテンの渋沢に運動部長を引き継いだのはもう一カ月も前のことだった。 いつも礼儀正しく、仕事も早い出来た後輩だ。 「サッカー部最近どう?」 「まあ、ぼちぼち」 「そっかー。じゃ、私帰るから。」 あとはまかせた! そう言って振り返り歩き出そうとして、目の前の段差に気付かなかった私は大きくバランスを崩した。 体を支えようと咄嗟に両腕を伸ばした瞬間、ぐいっと腕を引き戻された。 「先輩、大丈夫ですか?」 「渋沢くん、」 ありがと、 そう言おうとして見上げると、心配そうな彼の顔が目に入った。 気がつけば私は、彼のいつもの穏やかな表情からは想像もつかないような力強い腕の中だった。 かあっと頭に血が上る。 「ありがと。」 「気を付けてくださいよ。」 「あはは、うん、わかってる。じゃあね!」 早鐘のような鼓動を悟られてしまう前に、逃げるようにして私はその場を後にした。 「…どうしよう。」 力強い腕の感覚が鮮明に蘇る。 大きな体、見あげてやっと届く視線。 思い出すたびに、どくん、とまた早くなる鼓動。 「私――渋沢くんのこと、好き…なのかな」 体格の差を自覚して |