その日は朝から雨だった。
たっぷりと湿気を含んだ空気の重みが傘を握る手から伝わってくる。
空を覆う春に似つかわしくない灰色の雲はさっきよりも一段と濃さを増している気がした。

これ以上雨が強くなる前に家に帰ろうと足を速めたとき、ふとなにかの鳴き声に気がついて今来た道を振り返った。


『ニャー』


…猫だ。
電信柱の陰に隠すように置かれた段ボール箱の中に小さな子猫が二匹、毛布にくるまれてこちらを見つめていた。
震える二匹の子猫をそっと腕に抱きとると、ミーミー鳴きながら擦り寄ってくる。
でもうちは狭い。一匹なら飼えるかもしれないが二匹は無理だ。
少しの間考えたが、このままここに置いておいては弱ってしまうだろう。とりあえず連れて帰ろうと決め、立ち上がろうと振り返った。

「あ、」

目の前には大きな足。視線を上へと移動させると、どこかで見たことのある顔が目に入った。


「天城…くん・・・」


やばいかも、と思った時にはすでに天城とばっちり目が合った後だった。
天城遼一――サッカー部のストライカーで乱暴者と評判だ。
…まさか、この子猫を―そう思って抱く腕に力をこめた。

「二匹とも飼うのか?」
「え?」
「こいつら。捨てられてたんだろ。」

そうなんだろ、と子猫が入っていた段ボールを顎でしゃくる。

「うち一匹しか飼えないけど…でも置いとくわけにはいかないし、とりあえず今日は連れて帰る。」
「ふーん。」

そう言うなり彼は私の腕の中の子猫を一匹、抱きとった。

「こいつは俺が飼う。」
「え?」
「嫌か?」
「ううん…そんなこと」
「帰ったらあったかい牛乳飲ましてやるから、それまで待ってろ。」


彼の口から出た思いがけない言葉と、子猫を優しく撫でる大きな手。
今までに見たことのないような穏やかな瞳。
子猫を自分の懐に入れると地べたに置かれていた傘を押しつけるように私に手渡し、急かすように立ち上がった。


「おい、帰るぞ。」


私を見下ろすその顔は、もう私のよく知っているいつもの彼に戻っていた。


「天城くん。」
「何だ。」
「大事に、してあげようね。」


今朝まで知らなかった、あなたの






それは私を惚れさせるには十分だった。